第2創業期の会社
ウタゴエ株式会社 版
Last update: January 9th, 2006.
ウタゴエ株式会社を立ち上げてから、3年ほどが過ぎた頃、明らかに「今までと会社が変わってきている」と感じた時期がありました。それは、創業期の会社とは違うフェーズに我々が成長し、足を踏み入れたことを示すものでした。
一般的には、第2創業期の会社には、様々な試練が降りかかると言われています。その試練は、抗いがたい波のように経営者を襲い、ときには取り返しのつかないことも起こると言われています。
知人に薦める書籍の欄で紹介したドラッガーの書籍「ネクストソサイエティ」にあるように、
ある仕事が「チャンスだと思うが大変だと思う」と感じたとき、現在のマネジメント能力を超えてきた時期だということを認識できるかどうかで、状態は大きく変わってくると思います。
以下では、私が本当に事前に、誰かに教えて欲しかったこと、もしくは書籍やネットでもっと情報を得られればと思ったことを書きます。
会社を立ち上げたばかりの方、これから立ち上げようとする方にとって、リスク回避に少しでもの参考になる情報があれば幸いです。
1.第2創業期の特徴
第2創業期はだいたい3年を過ぎた会社に訪れると言われていて、「倒産危機管理体制時期」と表現する人もいます。それくらい大切なこの時期に起こる現象として、代表的なものは、以下のとおりです。青字が私が実際に感じたことでした。
これらの現象は、会社を立ち上げた当初に、キャッシュフローで悩む日々を送った経験のある経営者がやっと、起動に乗り始めたときにやってくると聞いています。
事業の売上の曲線と事業の時間軸の関係は以下のようになります。
図1:事業の成長曲線と、事業の売上フェーズ。
事業の売上フェーズとしては、「開拓期」「導入期」「成長期」「成熟期」「安定期」「衰退期」という各フェーズがあります。
私は「成長期」のように売上が急速に伸びる時期を第2創業期と呼ぶのだと思っていましたが、それは間違いでした。
実際は売上が伸び始める、「導入期」には「会社が変わってきている」と感じました。ゆるやかな成長期であっても、経営者がその時期は訪れることを知っているのと、知らないのとではまったく対応が異なってきます。私自身、今思えば、気がつくのがもう少し早ければと思うこともありました。
3.会社が変わってくる売上の性質と人員体制
私が明らかに「会社が変わってきた」と感じたのは、何と言っても、売上の性質が、単発的なものから継続的になってきたときでした。自ら起業した社長が経験する最初のありがたい事は、何と言っても、「初めてのお客様からお金を頂いたとき」ですが、次にありがたい瞬間は、売上が継続的でしかも、社員の生活を安定させることができる契約を結べたときだと思います。
ところが、この時期に「ようやく会社が成長してきた」などと感慨深く思う間もなく、様々な警告音は鳴り始めます。
まず、売上が継続的になるという事は、継続的な仕事が入ってくるということです。これは、ソフトウェアをライセンスしている会社としては、少なくとも継続的に顧客サポートできる人員体制を築いていく必要性を意味しています。
その際に、十分な人員が揃っていればまったく問題ないことですが、資本金がそれほど大きくない会社にとって、そもそも手の空いている人員がいることは、ほとんどありません。このため、キャッシュフローを見ながら、あるいは一時的な資金調達を考えながら、急いで人員を集める必要があります。
また、この時期はマネジメント・チーム体制について、壁に当たる時期だと思います。個々人のプレイヤーではなく、チームとして事業に向かっていく時期です。
人員を集めるといっても、優秀な人材は、大体が忙しい方です。また、外部から呼ぶには、とても給料が高くつきます。このため、その人たちの協力を本当に得られるようになるか、社内のスタッフでマネジメントチームを作り上げるまでには時間が掛ります。会社がそこそこの人員体制、マネジメント・チームを整えるまでに、概ね数ヶ月~1年半は掛ると覚悟しておいた方がいいと思います。
この数ヶ月~1年半の間、色々な問題は降りかかってきます。
4.人員体制が間に合わない期間の現象
人員体制が間に合わない間、まずは現在の体制で何とか乗り切ることになります。そうは言っても、人間には限界があります。
売上が仮に2倍になるとき、もしかしたら、2倍働く事になるかもしれませんが、一日は24時間しかないので、当然のことながら、無理が生じます。その期間が長くなればなるほど、一人ひとりの精神的な負担も大きくなります。
この結果、現在の人員がまずは病気になったり、遅刻や早退が増え始めることがあります。もし、その人員がタフな方で、独身の場合は問題も大きくならないかもしれませんが、家庭を持っている場合、もしかしたら、家族の方に負担が生じ始め、家族の方が病気になったりします。
若いスタッフはタフで果敢に新しい技術やビジネスに挑戦していくことで、好奇心や達成感を満たすことが多いので、ついつい無理をしていても楽しいと思うところがありますが、この時期、自分や家族に病気が出始めたら、それは無理しているかもしれないと疑った方が良いと思っています。経営者としては、一刻も早く人員体制を整えることが必要になると思います。
また、この期間、無理を通して何とか少ない人数で短期的に仕事を達成しても、数ヶ月以上経過すると、仕事の品質低下が浮かび上がってくることがあります。
こうなると、顧客のクレームが鳴り響き始めます。また、クレームを出してもらえない顧客でも、支払が滞ります。
「商品やサービスに対するクレーム」が出始めた場合、経営者は、最優先で事態の回復、信頼の回復を図る必要があると思います。放置してしまったり、うまく顧客をケアできない場合はやがて、「会社に対するクレーム」に変化します。こうなると本当に修羅場だと思います。
5.家庭とのバランスと社内コミュニケーション
上記の過程で、切実に思うのは、家庭とのバランス、社内コミュニケーションの重要さです。上記の事象は、設立後数年経過した多くの順調な会社で発生すると聞いていますが、その裏側では家庭や社内のコミュニケーション不足からトラブルが生じ始めます。みんな忙しいので、仕事に没頭し相手に対する興味関心や思いやりの機会を損失して、ちょっとした誤解が生じます。ちょっとした誤解の積み重ねは、大きなトラブルの原因になります。
そういったリスクの回避方法として、ウタゴエ社では社内のコミュニケーションを敢えて取る時間を取るようにしています。
また、最近では、私も家では、家族がいるときや、起きている時間帯では、なるべくPCを開かないようにと心掛けています。それでも、どうしてもというときが多いのも事実なのですが・・・
休日はしっかりと休むようにしています。
6.マネジメント・チームと会社の環境
以上の経験を踏まえ、現在、ウタゴエではマネジメント・チームの育成と、経営チームの再編を行っています。きちんとした体制になるまでには、時間が掛るものだと思いますが、良い方向に向かって役員からスタッフ全員までの意識を合わせていければと思っています。
また、オフィス環境としては、「5感で感じるオフィス」というテーマで、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚に刺激のある環境作りを推進しています。ときどき、犬を連れてきてくださる方がいたり、オフィス内には、デザインが面白いオブジェやオモチャがあったりします。音楽は一日中流れ、お菓子やジュースバーを設置して福利厚生費として、常備するようにしています。
さらに、技術や価値を創造する企業という性質上、「Bank Time」という時間を設定して、勤務時間の10%程度は、正社員はまったく自由に活動できるようにして、色々なものを体験し、それを社内にフィードバックできればと思っています。Bank Time は、個人として、経験を貯蓄するという意味から、こう名づけましたが、海外では bootlegging という手法でも知られています。
こういった活動を通して、働く個人が仕事と家庭も、うまくバランスをとりながら、最終的に、会社の価値も高まる方向に向かうことができ、より社会に役立てる企業に育てられればと思っています。
最後に、私は多くの人の協力を得られた結果、第2創業期の前半を、何とか大きな事故もなく過ごしてきたと思います。特に、会社のフェーズを深く理解して育ててくださった顧客の皆様、ビジネス・パートナーを始め、社内外のスタッフの力があったからこそ、今日まで生きてこれたと、心から感謝しています。
また、大学や研究所の先生方や先輩、家族や親戚の方々の協力がなければ、切り抜けていけなかったことも多いと思います。この場をお借りして、心から御礼申し上げます。
これからも、社会に少しでも役に立てるように、尽力致したいと思いますので、引き続き御協力と御支援を賜れますよう、お願い申し上げます。
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